名古屋でAIシステムの開発をしている小嶋です。最近、ある政治家のXアカウントとやり取りして、考えさせられたことがありました。
本人の名前で返信をもらい、本人に読んでいただけるものと思ってDMを送りました。すると、「DMは本人ではなく事務所のスタッフが管理しています」という返事が来ました。丁寧な返事でしたし、スタッフの方が悪いわけではありません。ただ、そうなると、前にもらった返信も本人が書いたのか分かりません。
政治家のXをスタッフが運用すること自体は珍しくありません。この記事では、特定の誰かの話ではなく一般論として、スタッフが運用するときに気をつけたほうがよいことをまとめます。
1. Xの規約では、スタッフの運用は違反ではない
先に結論を書くと、政治家本人のアカウントを事務所のスタッフが運用するのは、Xの規約違反ではありません。
- Xが禁じているなりすましは、「別の人や団体を、紛らわしく、人をだますかたちで装うこと」です。本人の了承のもとで、本人のアカウントを事務所が運用するのは、これに当たりません。
- Xのルールでも、SNS担当者が他人の代わりにアカウントを運用することは、ほかのルールを守っている限り認められています。
- Xには、他の人にアカウントを任せる委任(Delegate)の機能があります。任された人は、投稿もDMの送受信もできます。
日本の法律にも、議員の発信を誰が書いたかを明かす義務はありません。秘書が礼状や挨拶文を書くのと同じで、ふつうの運用の範囲です。
2. それでも問題になるのは、読む側に区別がつかないから
規約上は問題がなくても、受け取る側には問題が残ります。
Xでは、名前の本人が書いていると信じて読み、返信します。政治家のように、信頼で票を得る人ならなおさらです。
- 本人の名前で「大変参考になるご意見です」と返信しておきながら、DMでは「本人ではなくスタッフです」と断る。この使い分けは、受け取る側には不誠実に映ります。
- 本人の名前で出た言葉は、スタッフが書いたものでも、本人の言葉として引用され、責任も本人が負います。
- プロフィールに「チームで発信」と書いてあっても、どの投稿や返信を本人が書いたのかは分かりません。
つまり、スタッフが書くこと自体ではなく、「本人とスタッフの区別がつかないこと」が問題です。
3. 国会議員624人のプロフィールを数えた
当社では、国会議員の発言ログを作るために、衆参の国会議員711人のXアカウントの一覧を持っています。Xを使っている624人のプロフィールで、誰が運用しているかを書いているかを数えました(2026年11月1日時点)。
- 事務所のアカウントとして運用している(名前が「◯◯事務所」など):11人
- プロフィールに「スタッフも投稿します」などと明記している:35人
- 本人が書いていることを明記している:1人
運用体制を明かしているのは、624人のうち47人でした。残りの約9割は、本人が書いているのか、スタッフが書いているのか、プロフィールからは分かりません。
明かし方には、いくつかの型がありました。
- 事務所のアカウントにする:萩生田光一議員の「萩生田光一事務所」は、「運営はスタッフが行っており」と書いています。麻生太郎議員も「麻生太郎事務所」です。
- スタッフも書くと明記する:高市早苗総理は「総理在任中の投稿は、一部広報スタッフによるものを含みます」、下村博文議員は「スタッフが投稿することもあります」と書いています。
- 本人が書くことを売りにする:内山こう議員は「本人が毎朝5時に更新している」と書いています。
ただ、どの型も、プロフィールで全体の体制を明かしているだけです。一つひとつの投稿や返信が誰のものかまでは分かりません。
4. スタッフが運用するときの注意点7つ
① プロフィールに運用体制を書く
「本人とスタッフで運用しています」「スタッフが運営する事務所のアカウントです」のように、誰が書いているかをプロフィールに書きます。いちばん簡単で、まずここからです。
② 投稿や返信のたびに、本人かスタッフかを書く
プロフィールに書くだけでは、一つひとつの投稿や返信が誰のものかは分かりません。投稿や返信の末尾に「(本人)」「(スタッフ)」のように書けば、読む人が迷いません。
アメリカのオバマ元大統領のアカウントは、スタッフが運用する中で、本人が書いた投稿にだけ「-bo」と署名していました。本人の言葉がはっきり分かれば、本人からの一言の重みが増します。
③ 本人のアカウントと事務所のアカウントを分ける
告知や活動報告は事務所のアカウント、本人の考えは本人のアカウント、と分ける方法もあります。萩生田議員や麻生議員の事務所のアカウントがこの形です。分けておけば、本人のアカウントに出る言葉は本人のもの、と読む側も受け取れます。
④ 返信・いいね・リポストも、本人の名前で出ることを忘れない
投稿だけでなく、返信やいいね、リポストも、本人の名前で相手に通知が届きます。相手は「本人が見てくれた」と受け取ります。スタッフが返信するなら、②の署名を返信にも付けます。
⑤ DMを誰が読むかを、先に書いておく
DMを本人が読まないなら、プロフィールにそう書き、提案や依頼の窓口(事務所の連絡先、党の窓口など)も書いておきます。本人に届くと思って長いDMを送った人に、あとから「スタッフです」と断るより、ずっと親切です。
⑥ パスワードを渡さず、委任の機能を使う
スタッフにパスワードを渡して運用すると、誰がどの投稿をしたか分からなくなり、スタッフが辞めたときにパスワードを変え忘れる危険もあります。Xの委任(Delegate)の機能を使えば、スタッフは自分のアカウントでログインして投稿やDMができ、パスワードも設定も変えられません。不要になったら外すだけです。
⑦ 選挙期間中に代行業者へ報酬を払うときは、公職選挙法に注意する
2013年のネット選挙の解禁で、候補者や政党はSNSで選挙運動ができるようになりました。ただし、選挙運動をしてもらう対価として業者にお金を払うと、買収になるおそれがあります。総務省のガイドラインでは、候補者の指示どおりにSNSの更新作業をするような、機械的な作業への報酬は認められる一方、業者が主体となって投稿の企画や内容を考える場合は、買収になるおそれがあるとされています。選挙期間中に運用を外に任せるなら、作業の範囲を決めておきます。
5. 企業の公式アカウントや経営者のXも同じ
この注意点は、政治家だけの話ではありません。企業の公式アカウントや経営者のXを、社員やSNS運用代行の会社が書いている場合も同じです。
社長の名前で出ている返信を、実は代行の担当者が書いていた。それが取引先に分かったとき、失うのは信頼です。「中の人」が誰かを隠すより、誰が書いているかを最初に明かしておくほうが、長い目で見て信頼につながります。
よくある質問
政治家のXをスタッフが運用するのは、なりすましになりますか?
なりません。Xが禁じているなりすましは、別の人や団体を、人をだますかたちで装うことです。本人の了承のもとで本人のアカウントを事務所が運用するのは、これに当たりません。Xにも、他の人に投稿やDMを任せる委任(Delegate)の機能があります。
スタッフが運用していることを、明かす義務はありますか?
Xの規約にも日本の法律にも、明かす義務はありません。ただ、読む人は本人が書いていると受け取るので、プロフィールに運用体制を書き、できれば投稿や返信のたびに本人かスタッフかを書くほうが、誤解を招きません。
国会議員で、スタッフの運用を明かしている人はどのくらいいますか?
当社の一覧で、Xを使っている国会議員624人のプロフィールを数えると(2026年11月1日時点)、事務所のアカウントとして運用しているのが11人、スタッフも投稿すると明記しているのが35人、本人が書くと明記しているのが1人で、合わせて47人でした。
選挙期間中に、SNSの運用を業者に任せてもよいですか?
候補者の指示どおりに更新するような機械的な作業への報酬は認められますが、業者が主体となって投稿の企画や内容を考える場合は、買収になるおそれがあると総務省のガイドラインで示されています。任せる作業の範囲を決めておくことが大切です。
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