名古屋でAIシステム開発の会社をやっています。前の記事で、福岡県田川市のブロードリスニングを調べました。
田川市のほかに、ブロードリスニングに取り組んでいる自治体はどこか。何に使い、どの仕組みを選び、首長はそれをどう発信しているのか。各自治体の公式発表と報道を読み、首長のXも確かめました。2026年10月12日時点でまとめます。
1. 見つかった自治体(7つ)
福岡県田川市
- いつ:2026年10月1日から
- 何に:テーマを決めずに、市民の困りごとや「こうなったらいい」を広く集める
- 仕組み:一般社団法人Manikenの「聴くAI」。DD2030(デジタル民主主義2030)の広聴AIに、独自の機能を足したもの。早稲田大学デモクラシー創造研究所が協力
- 規模:11日間で声237件、コメントを含めて318件
- 特徴:投稿の前にAIが1問聞き返す。声のまとまりごとに、市が「その後どう検討したか」を返す「進捗」の欄がある(まだ更新はない)
- 首長の発信:浦野仁市長が、開始の日にXで告知(表示1.5万、いいね810)
大阪府堺市
- いつ:意見の受け付けは2026年7月2日から8月31日まで。実証は2027年3月31日まで
- 何に:堺市のICTの取り組みの実績をまとめた資料「SHIFT SAKAI」への評価と、行政サービスへの要望を集める
- 仕組み:株式会社Liquitousの「Liqlid(リクリッド)」。あわせて、XとInstagramで「#シフトサカイ」を付けた投稿も集める
- 首長の発信:永藤英機市長は、指定都市市長会のデジタル化推進担当として、生成AIと情報セキュリティについてXで発信している。ブロードリスニングそのものの投稿は、今回は見つけられなかった
大阪府
- いつ:2025年11月27日の知事の記者会見で発表。2026年5月に「実施しました」と更新
- 何に:府のスマートシティ化の検討
- 仕組み:大阪公立大学などと連携。Liqlidと、XやInstagramへの投稿から府民の意見を集めて分析
- 議会:2026年10月8日の府議会の常任委員会で、府議から「ブロードリスニングの推進」の質疑があった
- 首長の発信:吉村洋文知事が記者会見で発表している。Xでの関連の投稿は、今回は見つけられなかった
岩手県
- 何に:県民の多様な声の分類と、まとめの文章づくりをAIで支援できるかの検証
- 協力:株式会社ブーツ
- 結果:これまで人の手でしていた分類やまとめの作業が、短い時間でできるようになった、と県が公表している
- 首長の発信:達増拓也知事のXで、関連の投稿は見つけられなかった
東京都渋谷区
- いつ:2025年7月に結果を公表
- 何に:区民意識調査の自由記述6,037件の分析
- 仕組み:DD2030の広聴AI
- 結果:自動の要約、話題ごとの分類、世代や地域ごとの傾向まで見られた
- 首長の発信:長谷部健区長のXのアカウントは、確かめられなかった
香川県宇多津町
- 何に:2024年3月にまとめた総合計画のときの、町民アンケートの自由記述396件の整理
- 仕組み:DD2030の広聴AI(協力:株式会社ブーツ)
- これから:「今後、様々な住民アンケートで広聴AIを利用してまいります」としている
- 首長の発信:町長のXは見つけられなかった
神奈川県横浜市
- いつ:2026年7月24日に発表
- 何に:AIで市民の声を「広く×深く」とらえる実証プロジェクト。横浜らしいブロードリスニングを考える共創セッションの参加者を募った
- 担当:行財政局
- いま:市長が辞職し、10月18日に市長選がある。新しい市長のもとでどう続くかは、まだ分からない
このほか、東京都の長期計画の意見募集にブロードリスニングが使われたという記事も見かけましたが、都の一次資料では確かめられなかったので、ここには入れていません。
2. 2つの型に分かれる
並べてみると、取り組みは2つの型に分かれます。
すでにある声をAIで整理する型:渋谷区(区民意識調査6,037件)、宇多津町(アンケート396件)、岩手県。集め方はこれまでどおりで、自由記述の読み込みと分類をAIに任せます。人が何日もかけていた作業が短くなる、という効果が分かりやすく、始めやすい型です。
新しく声を集め続ける型:田川市、堺市、大阪府、横浜市。専用のページやSNSで、住民が自分から書き込む場をつくります。集まる声の量は、告知の仕方と、書いたあとに何が起きるかで大きく変わります。
前者は「集めた声をどう読むか」の改善で、後者は「声をどう集め、どう返すか」まで含めた広聴そのものの作り直しです。
3. 使われている仕組みは3つ
- 広聴AI(DD2030がオープンソースで公開):渋谷区、宇多津町。田川市の聴くAIも、これをもとにしている
- Liqlid(株式会社Liquitous):堺市、大阪府。住民が投稿し、ほかの人の意見に「いいね」で共感を示せる
- 聴くAI(一般社団法人Manikenが広聴AIをもとに機能を追加):田川市
どれも、意見を集めて、AIで話題ごとに整理し、見えるようにするところまでは共通しています。違いが出るのは、集めたあとです。田川市の聴くAIには、市がその後の検討を返す「進捗」の欄があります。
4. 首長本人が発信していたのは、田川市長だけ
XでAI、ハザードマップ、ブロードリスニング、広聴AI、Talk to the Cityなどの語を引き、直近1か月の投稿を調べました。首長本人がブロードリスニングの取り組みを発信していたのは、田川市の浦野市長だけでした。
ほかの自治体では、記者会見や市の公式ページで発表していても、首長のXでは見当たりませんでした。渋谷区長と宇多津町長は、Xのアカウントそのものを確かめられませんでした。
ブロードリスニングは、声を出してくれる人がいなければ始まりません。田川市で11日間に237件の声が集まった理由の一つは、市長本人が自分の言葉で「あなたの声を、AIが市政に届けます」と呼びかけたことだと思います。担当課の告知だけでなく、首長が自分で呼びかけるかどうかが、集まる声の量を左右しそうです。
5. どの自治体にも、まだ無いもの
調べた範囲では、どの自治体の取り組みにも、次の2つはまだありませんでした。
- 意見の割れ方と合意点:集まった声を話題ごとに分けて、共感の数を数えるところまではできています。ただ、賛成と反対がどう割れていて、立場をこえてどこなら一致できるのかを計算して見せているところはありませんでした。田川市長が会見で言った「少数の大きな声なのか、多数の声なのか」を見分けるには、ここが要ります
- 返したことの確かめ:田川市には「進捗」の欄がありますが、返した内容が集まった声とどれだけ合っているか、声を出した本人が自分の声の行き先をたどれるかまでは、まだ見えません
当社は、この2つのうち1つ目にあたるシステムを作っています。
「すでにある声を整理する型」の自治体には論点AIマップが、「新しく声を集め続ける型」の自治体には合意形成AIが、それぞれ次の一歩になると考えています。どちらも、自治体や議会が自分たちのサーバーに置いて、生成AIも外部のサービスに送らずに使える形で用意しています。
声を集めて地図にするところから合意をつくるところまで、デジタル民主主義のシステムを一つの流れで整理した資料もあります。
よくある質問
ブロードリスニングに取り組んでいる自治体はどこですか?
この記事で確かめたのは、福岡県田川市、大阪府堺市、大阪府、岩手県、東京都渋谷区、香川県宇多津町、神奈川県横浜市の7つです(2026年10月12日時点)。すでにある自由記述をAIで整理する自治体と、新しく声を集め続ける自治体があります。
自治体のブロードリスニングでは、どんな仕組みが使われていますか?
DD2030がオープンソースで公開している広聴AI(渋谷区・宇多津町)、株式会社LiquitousのLiqlid(堺市・大阪府)、一般社団法人Manikenの聴くAI(田川市)の3つが使われていました。
ブロードリスニングとパブリックコメントは何が違いますか?
パブリックコメントは、行政が示した案に対して意見を募る手続きです。ブロードリスニングは、テーマを広く取って自由に書いてもらった声をAIで整理し、どんな意見がどれくらいあるかを見えるようにする取り組みで、案ができる前の段階から使えます。
小さな町でもブロードリスニングはできますか?
できます。宇多津町は、総合計画のときのアンケートの自由記述396件をAIで整理しました。新しい場をつくらなくても、すでにあるアンケートの自由記述から始められます。
