名古屋でAIシステム開発の会社をやっています。デジタル民主主義2030(DD2030)が公開しているガイドブックの第2章「5つの取り組みの関係」を読みました。ブロードリスニングを3つに分けた整理がよくできていて、当社がこの1年で作ってきた議会・行政向けのシステムを当てはめると、どこが厚くてどこが薄いかがはっきりしました。その整理を書いておきます。
ガイドブックはまだ「整備中」と書かれていて、内容はこれから変わるかもしれません。ここに書くのは、2026年10月6日に読んだ時点の内容です。
第2章が言っていること
ガイドブックは、『ブロードリスニング』という本の第1章を引いて、ブロードリスニングを次の3つに分けています。
- ツールとしてのブロードリスニング:大量の意見をAIで集約・構造化・可視化する「部品」としての技術。代表は Talk to the City と広聴AI。
- 拡張熟議の支援としてのブロードリスニング:少人数でしかできなかった熟議を、人数(数千人・数万人)、頻度(年1回ではなく継続的に)、形式(オンラインやテキスト、同期・非同期)の3つの面で広げるもの。代表はいどばた、Polis、倍速会議、JOIN。
- 政治家・行政が主導するブロードリスニング:政党や政治家が市民の意見を集めて公約や政策に生かすもの、行政が計画づくりのサイクルに組み込むもの。
そのうえで、DD2030 の中心にある「コアループ」は、この3つをつなげたものだと説明しています。コアループの定義は「声を集めて終わり」を乗り越え、市民の意見を合意形成につなげ、政策・法令・予算として実行し、社会の改善実感まで届けること。意見を集めるのが1つ目、合意をつくるのが2つ目、実行して届けるのが3つ目、という対応です。
広聴AIは1つ目、いどばたは2つ目のツールとして位置づけられています。Polimoney(政治資金の透明化)は、第3章の「オンライン広告詐欺対策」の話の中で扱うと予告されています。
読んで気づいたこと:3つ目には、名前の挙がったツールが無い
1つ目と2つ目は、広聴AI・いどばた・Polis と、製品の名前で説明されています。ところが3つ目の「政策・法令・予算として実行し、改善実感まで届ける」には、ガイドブックの中で名前の挙がったツールがありません。
第3章の「オンライン広告詐欺対策」でも、3つ目は「市民熟議の結果を政府への政策提言へつなげる仕組み」と書かれているところまでです。提言のあと、国会でどう質問され、政府がどう答え、どの法律や予算になったのかを追う部分は、まだ書かれていません。
第2章の中にも、「ブロードリスニングとはSNSから意見集約を行い、政策決定に生かすことである」というイメージが急速に広がった、という一文があります。注目が前半の「集める・まとめる」に寄っている、という自己認識だと読みました。
当社のシステムを3つに当てはめる
当社は、議員事務所や自治体が自前のサーバーで持てる形の議会・行政向けのシステムを作ってきました。並べてみると、3つの層それぞれに当たるものがあります。
1つ目(集めて、まとめる):広聴AIの完全ローカル導入キット
広聴AIをAPIキーなしで動かす導入キットは、DD2030 の広聴AI(オープンソース・AGPL-3.0)を、OpenAI のキーなしで、手元の生成AIだけで動かす手順と検証ツールの一式です。公式の手順は OpenAI API が前提ですが、ソースにあるローカルLLMの経路を使い、意見のデータを外に一切出さない構成にしました。意見48件の分析が2分33秒、API費用は0円でした(当社のGPUサーバーで実測)。
政治団体・自治体・労働組合のように、意見のデータを外部のクラウドに置けないところ向けです。名古屋のまちづくりの意見で動かした見本も公開しています。
2つ目(意見の割れ方と、合意点を見つける):Kurage 合意点マップ
Kurage 合意点マップは、台湾で使われた Pol.is と同じ筋の計算を自前で実装したものです(MIT)。賛否を集めて意見がどう割れているかを見つけ、割れた人たちがそろって賛成した点を出します。自由記述の CSV を入れれば、誰も投票する前から意見のグループが出ます。判定は手元の生成AIで行い、外部のAPIには出しません。票が足りないときは、数字を出さずに「足りない」と書きます。
3つ目(実行と、そのあとを追う):質問主意書・陳情・国会トラッカー
ここが今回いちばん書きたかったところです。意見が政策提言になったあと、それが国会や議会でどう扱われたかを追うシステムを、当社はいくつも持っています。
- Kurage 質問主意書アシスト:衆参の質問主意書と政府の答弁書を、本文の中までことばで引けます。同じ論点で過去に誰が何を聞き、政府が何と答え、どこが「お答えすることは困難」とされたかを1画面に並べます。収録は衆議院1,189件・参議院978件。
- 国会トラッカー:国会会議録のAPIから、話題ごとに国会の質疑と政府の答弁を集めたページです。いま51の話題を追っています。
- Kurage 陳情ナビ:住民の困りごとを、使える制度か、市会への陳情のどちらかに着地させます。名古屋市会の書式例どおりの陳情書と、所管の常任委員会・提出先・次の定例会までを1画面で返します。
- TheyWorkForYou 日本語導入キット:英国で20年以上使われてきた議会透明化のオープンソースを、日本の国会会議録で動かすキットです。素のままでは日本語が1件も引けない問題を直しています。
DD2030 のツールが前半の「集める・合意をつくる」に厚いのに対して、当社は後半の「提言が国会でどう答えられ、制度としてどう動いたか」を追う側に手持ちが多い、という形になっていました。
後半の追い方を、DD2030 が取り組んでいる「詐欺広告」を例に具体的に書いたのが、次の記事です。
ブロードリスニングの後半——集めた意見が国会でどう扱われたかを追う
「自前で持つ」ことの意味
3つの層のどれでも、当社のシステムは外部のAIのAPIに意見や記録を送らない作りにしています。広聴AIのキットはローカルの生成AI、合意点マップも手元の生成AI、質問主意書アシストと陳情ナビは生成AIをそもそも使いません。
意見を集める側にとって、誰が何を言ったかは慎重に扱うべきデータです。支援者の声、住民の困りごと、党内の議論。外に出せないから試せない、という理由で止まっている議員事務所や自治体は少なくないと思います。オープンソースのツールを、手元で動かせる形にして渡すのが、当社の役割だと考えています。
よくある質問
デジタル民主主義2030(DD2030)とは何ですか?
AIを使って市民の意見を集め、合意をつくり、政策として実行するところまでをつなげることを目指す、民間主導のプロジェクトです。広聴AI・いどばた・Polimoney などのオープンソースのツールを開発しています。当社は DD2030 とは別の会社で、広聴AIを手元で動かす導入キットなどを独自に作っています。
ブロードリスニングとは何ですか?
大勢の人の意見を、AIなどの技術を使って広く聞き取り、まとめて、合意や政策づくりに生かす取り組みのことです。DD2030 のガイドブックは、これを「ツール」「拡張熟議の支援」「政治家・行政が主導するもの」の3つに分けています。
当社のシステムはどこで買えますか?
Kurage App Storeで扱っています。ソースコード付きで、月額はかかりません。議員事務所や自治体の業務に合わせて作り変えるバイブカスタマイズや、名古屋市内で月15時間のAI-IT顧問契約もお受けしています。
