台風25号の大雨で、千葉県の北印旛沼の堤防が切れました。「川が氾濫したところは、ハザードマップに指定されていたのか」と聞かれて、手元のデータで確かめられるか試しました。
答えから書くと、国土地理院が浸水範囲を描いた北印旛沼の周りは、洪水ハザードマップの元になる「洪水浸水想定区域」にほぼ全部入っていました。 想定どおりの場所が、想定どおりに浸かったケースです。
何が起きたか
国土交通省の速報によると、9月19日から21日の総雨量は千葉県で450ミリを超えました。
- 千葉県が管理する6つの河川で浸水を確認
- 北印旛沼・北印旛沼(角川集水路)・長門川の3地点4か所で堤防が決壊
- 佐倉市の高崎川で「氾濫発生情報」(9月21日 21時15分)
- 養老川でレベル5の氾濫発生情報
- 成田市の船形干拓地や栄町安食で、大規模な床上浸水
国土地理院は、国交省のヘリの空撮と標高データから、北印旛沼周辺の浸水推定図を9月22日・24日・25日の3回分公開しています。輪郭はGeoJSONでダウンロードできます。
やったこと
当社の Kurage 洪水・内水ハザードマップ(kflood) は、国土数値情報の洪水浸水想定区域(A31 第4.0版・全国)をデータベースに入れて、住所がどの区域に入るかを判定しています。全国で約2,100万の多角形です。
ここに国土地理院の浸水範囲の輪郭を持ち込んで、浸かった範囲のうち何ヘクタールが想定区域に入っていたかを、区域の種類ごとに面積で出しました。点をいくつか調べるのではなく、面どうしを重ねています。
見た区域は4種類です。
- 想定最大規模:想定しうる最大の雨で川があふれたときの範囲(おおむね1000年に1回)
- 計画規模:河川整備の目標にしている規模の雨での範囲
- 浸水継続時間:水が引くまでにかかる時間の想定
- 家屋倒壊等氾濫想定区域:流れで家が壊れるおそれがある範囲
結果
| 日付 | 浸水範囲 | 想定最大規模に入っていた | 計画規模に入っていた |
|---|---|---|---|
| 9月22日 | 559.7ha | 100% | 99.9% |
| 9月24日 | 494.0ha | 100% | 99.9% |
| 9月25日 | 315.1ha | 100% | 100% |
9月22日の範囲で、どちらの想定区域にも入っていなかったのは 0.1ha だけでした。浸水継続時間の区域にもほぼ全部入っています。家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていたのは7.9ha(1.4%)で、沼の周りの干拓地は「流れで家が壊れる」場所ではなく「水がたまって引かない」場所として想定されていたことになります。
想定されていた深さは、大半が0.5〜3mか3〜5mで、一部は5〜10mでした。ただし、ここは複数の川の想定が同じ場所に重なっているため、深さの内訳を足すと全体の面積を超えます。「その場所は、いずれかの川の想定でこの深さまで浸かるとされていた」という読み方になります。
報道に出た地名も、町丁の代表点で確かめました。
- 栄町安食:区域内。想定最大0.5〜3m、水が引くまで3日〜1週間の想定
- 佐倉市鏑木町(高崎川の水位観測所がある所):区域内。想定最大3〜5m
- 成田市船形:区域内。想定最大0.5〜3m
干拓地は「お盆」の形をしていて、水が自然には抜けません。国交省も大型の排水ポンプ車を出して24時間排水していました。ハザードマップの「浸水継続時間 3日〜1週間」は、まさにこの状態を想定した数字です。
分からなかったところ
高崎川・鹿島川沿いの佐倉市街や、養老川など残りの河川は、面積で確かめられていません。 国土地理院の浸水推定図が北印旛沼の分しか公開されていないためです。国交省の資料には佐倉市街の浸水の写真が載っていますが、範囲のデータはありません。
地名の確認は、町丁の代表点(町のおおよその中心)で見ています。実際に浸水した家の地点ではないので、「その町のどこかは区域内」という程度に受け取ってください。佐倉市六崎は代表点が区域外でした。
川の氾濫ではない浸水は、この区域の対象外です。 台風25号では、川から離れた「高台のくぼ地」で道路が冠水したことも報じられています。これは下水や側溝があふれる内水で、洪水浸水想定区域には出てきません。8月の千葉豪雨では、ウェザーニューズが「被災報告の2人に1人は浸水想定区域の外」と分析していました。内水を含めると、ハザードマップの外で浸かる例は珍しくありません。
やってみて思ったこと
ハザードマップが外れたときは話題になりますが、当たったときは話題になりません。今回の北印旛沼は、浸かった範囲が想定の中にほぼぴったり収まっていました。「ハザードマップは当てにならない」という話と、「想定どおりに浸かった」という事実は、両方見ておく必要があります。
作業としては、国土地理院の浸水推定図がGeoJSONで出ていたので、手元のデータベースに入れて重ねるだけで済みました。つまずいたのは技術的な細部で、国土地理院のサーバーが古い方式のTLS再交渉を要求していて、既定の設定のままだと接続できませんでした。
自分の住所が洪水浸水想定区域に入っているか、何メートル浸かる想定か、水が引くまで何日かは、こちらで調べられます。
同じ住所の土砂災害警戒区域は 土砂災害ハザードマップ で見られます。
自分のところで動かしたい方へ
今回の照合に使った洪水浸水想定区域の判定は、そのまま自治体・不動産会社・事務所のサイトに置けるシステムとして出しています。全国の想定区域データを同梱していて、判定は置いた場所で完結します(外部の有料APIは使いません)。
- 触ってみる: 住所を入れると、洪水と内水で何メートル浸かる想定か、いま気象警報が出ているかまで返すデモです。 洪水・内水ハザードマップ「いま、どうするか」のデモ
- 洪水・内水だけ導入する: Kurage 洪水・内水ハザードマップ(Kurage App Store)
- 洪水・土砂・津波・避難所をまとめて導入する: Kurage 防災判定セット(Kurage App Store)
- ほかの業務システムも、買う前にデモで触れます。 デモ一覧|触ってから決める業務システム
出典
- 国土交通省「令和8年台風第25号による被害状況等について」 https://www.mlit.go.jp/saigai/saigai_260920.html
- 国土交通省「令和8年台風第25号の大雨に伴う河川の対応状況」(速報) https://www.mlit.go.jp/common/002023938.pdf
- 国土地理院「令和8年(2026年)台風第25号に関する情報」浸水推定図 https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R8_taihuu25gou.html
- 国土数値情報「洪水浸水想定区域データ(A31)」国土交通省
- NHK「千葉 佐倉市の高崎川で『氾濫発生情報』」 https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20260921de51734
- ウェザーニュース「川から離れた"高台のくぼ地"で道路冠水」 https://weathernews.jp/news/202609/220091/
- ウェザーニュース「令和8年8月千葉豪雨、2人に1人が浸水想定区域"外"で被災か」 https://weathernews.jp/news/202608/140171/
浸水範囲と想定区域の面積は、上記の国土地理院・国土数値情報のデータを当社が加工して集計したものです。
