名古屋でAIシステムの開発をしている小嶋です。今日は仕事の話ではなく、Xで見かけた投稿に感じた違和感を書きます。
子どもが出演する「家族系」のYouTubeチャンネルで、収益化の停止が相次いでいます。報道によると、登録者62万人のチャンネルも、2026年7月に「未成年の意に反して注目を浴びることを促すコンテンツ」として収益化を止められました。
このニュースに、西村ゆかさんが次の趣旨の投稿をしていました。
- 家族系に限らず、自分のチャンネルに未成年の子を出してコンテンツにしている有名な配信者は多い。むしろそちらの収益化を止めれば、お金目的で真似する人もいなくなるのではないか。
- 親と子は別の人格。影響力のある人ほど、子の肖像権やプライバシーを真剣に守る責任がある。
「親と子は別の人格」というところは、そのとおりだと思います。違和感があったのは、「だから収益化を止めればいい」という結論の方です。
親が子どもの人生に影響するのは、避けられない
子どもをスポーツ選手にしようと、小さいころから練習させる。芸能事務所に入れて、子役にする。科学者になってほしくて、勉強に力を入れさせる。どれも、子どもが自分で選べない年齢のうちに、親が選んでいます。
親が子どもの人生に影響を与えるのは、どんな道を選んでも避けられません。その選択がYouTubeだったとして、小さいころからスポーツで鍛えるのと、YouTubeに出演させるのとで、何が違うのでしょうか。
お金の面も同じです。子役も、子どものモデルも、家族の収入になっています。「お金のためにやっているから駄目」とYouTubeにだけ言うのは、無理があります。経済的な理由で子どもを幸せにするために、YouTubeで収益を得る仕組みがあってもいいはずです。
よくある反論と、それでも同じだと考える理由
「スポーツとYouTubeは違う」という反論も考えてみました。
「動画はずっと残る」
動画は残り、検索できて、子どもが大人になってもついて回る。これはそのとおりです。
ただ、スポーツにも、一生残るものはたくさんあります。成長期の使いすぎによる野球肘や疲労骨折は、大人になっても治らないことがあります。頭を打つ競技の脳しんとう、体重を絞る競技での摂食障害、体罰や重圧による心の傷、燃え尽き。動画が残ることより重いものも多いです。
「間に入る第三者がいない」
テレビの子役なら、事務所や制作会社が間にいます。家で撮る動画では、撮る人も守る人も親です。
ただ、これもスポーツで普通にあることです。父親がコーチを務める卓球やゴルフは珍しくありません。
「YouTubeにはルールが無い」
これも違います。YouTubeには子どもの安全に関するルールがあり、実際に動いています。
- 子どもの心や体を危険にさらす動画は削除されます。違反を重ねれば、チャンネルごと停止されます。
- 2019年には、小さい子どもが大人なしでライブ配信することを禁じました。未成年が出る数千万本の動画で、コメント欄も止めています。
スポーツにも、危険を減らすルールがあります。高校野球は2020年に「1週間500球」の投球数制限を試行で始め、2025年に正式な規則にしました。体罰は、学校教育法で禁じられています。
社会は、スポーツが一生残るケガや心の傷を生むことを知っています。それでも、子どもにスポーツをさせることや、それで奨学金や収入を得ることを止めてはいません。危険を減らすルールを足してきました。
害のある動画は、すでに消されている
ここが、いちばん言いたいことです。
ひどい動画、子どもに害のある動画は、すでにYouTubeのルールで削除され、繰り返せばチャンネルごとバンされます。いま収益を止められているのは、削除するほどではない動画です。言い換えれば、ルールの上では「害がある」とまでは言えないが、一部の人が嫌う動画です。
そこの収益だけを止めるのは、子どもの安全の問題ではありません。価値観の問題です。
YouTubeは民間の会社で、どの動画に広告を付けるかは、YouTubeが自分で決めてよいことです。違和感があるのは、その外から「有名な配信者の子どもを出す動画も止めるべきだ」と求めることです。子どもに害があるかどうかではなく、見た人の感じ方を理由に、民間のサービスに他人の収益を止めさせようとしている。そう読めてしまいます。
ひろゆき氏の「児童労働」と、夫婦の立っている場所
同じニュースには、西村さんの夫のひろゆき氏も投稿しています。趣旨は次のとおりです。
- 子どもは親に逆らうのが難しいので、親の言いなりで動画を作る、動画作成という名の児童労働だ。
- YouTubeのようなプラットフォームが児童労働を防ごうとするのは当然の流れだ。
- 子どもの稼いだ金で親が鰻を食うのを恥と感じないくらい、日本社会は劣化した。
まず、「児童労働」という言い方は当たりません。報道の中で弁護士が指摘しているとおり、親が家で撮る動画には指揮命令が無く、労働基準法の「労働」にはあたりません。児童労働と呼ぶなら、親が仕事を取ってきて子どもが働くテレビの子役も同じはずです。「子どもの稼いだ金で親が鰻を食う」も、子役やスポーツで稼ぐ子どもの家族すべてに当てはまってしまいます。
そのうえで、もう一つ違和感があります。この夫婦が立っている場所です。
- ひろゆき氏は、2ちゃんねるの管理人として有名になりました。書き込みの削除の求めに応じず、名誉毀損の裁判で何度も負けています。2007年の取材では「賠償金は支払わない」と話し、のちの番組では、積み上がった額は時効で今はゼロだとも語ったと報じられています。2ちゃんねるには、本人の意に反して晒された人たちがいました。
- いまのひろゆき氏はYouTubeでも稼いでいます。ほかの人が作る切り抜き動画の収益を、作った人と折半する仕組みも作っています。
- 西村さんは、その知名度のある夫と結婚し、『だんな様はひろゆき』の原作など、夫の知名度を生かした仕事をしています。
2ちゃんねるで有名になり、有名な人と結婚し、その知名度を生かして本を売る。つながっています。西村さんが2ちゃんねるを運営したわけではありません。それでも、いまの仕事は、本人の意に反して晒された人たちの上に築かれた知名度に乗っています。
その夫婦が、「子どもが本人の意に反して晒され、親がそれで稼いでいる」と他人の稼ぎ方を責めています。プラットフォームが止めるのは当然だ、有名な配信者のものも止めるべきだ、とも言っています。責めている中身と、自分たちの立っている場所が、同じ形をしています。管理人だったころは削除の求めにもなかなか応じなかった人が、今度は「プラットフォームが止めるのは当然」と言うのも、筋が通りません。
害の有無ではなく、自分たちの価値観で他人の稼ぎ方を裁くのであれば、自分たちの稼ぎ方も、誰かの価値観で裁かれることになります。
止めるより、決まりを足す
では、何もしなくていいのか。そうは思いません。足りないのは、YouTubeのルールにも日本の法律にも無い部分です。
- 子どもの取り分を、子ども名義で残す決まり: いま、子どもが出た動画の収益は、法律上は親の収入です。フランスは2020年の法律で、子どもが稼いだ収益の一部を、成人するまで公的な機関に預けることを決めています。
- 撮影の時間の上限: テレビの子役には労働基準法の制限があります。家で撮る動画には、何もありません。
- 大人になってから、本人が消せる権利: 「親と子は別の人格」なら、子どもが大人になったときに、本人が選べるようにしておけばいい。
これなら、「子どもを出して収益を得る」ことを認めたまま、子どもを守れます。一律に収益を止めると、子どもの手元には何も残りません。お金が子どもにも残る分、決まりを足す方が子どもを守る力は強いと考えています。
国会では、テレビや舞台の子役の夜の出演時間や、長い拘束が取り上げられてきました。家で撮る動画に出る子どもを正面から扱った質疑は、当社が国会の会議録を集めているデータベースで探した範囲では、まだ見当たりません。
- 「子役」をふくむ国会の発言(会議録から集めたもの) https://xb4g.com/giin/search?q=%E5%AD%90%E5%BD%B9#ref=vibeblog-kazokukei
よくある質問
家族系YouTuberの収益化停止は、なぜ起きているのですか?
YouTubeの収益化の基準で、「未成年の意に反して注目を浴びることを促すコンテンツ」と判断されたものが止められています。子どもに害がある動画は、収益化の停止ではなく、削除やチャンネル停止の対象です。
子どもをYouTubeに出すのは、スポーツや子役と何が違いますか?
親が子どもの人生に影響を与える点では、違いはないと考えています。スポーツにも、一生残るケガや心の傷があります。違うのは、スポーツや子役には危険を減らす決まり(投球数の制限、労働基準法の時間制限など)がある一方、家で撮る動画には、子どもの取り分や撮影時間の決まりが無いことです。
収益化を止めずに、子どもを守る方法はありますか?
子どもの取り分を子ども名義で残す、撮影時間に上限を設ける、大人になったら本人が動画を消せるようにする、といった決まりを足す方法があります。フランスは2020年に、子どもが稼いだ収益の一部を成人まで公的機関に預ける法律を作っています。
