名古屋でAIシステムの開発をしている小嶋です。今日は仕事の話ではなく、カブアンドについて考えたことを書きます。
前澤友作さんが、Xで「突っ込みどころが多いカブアンドではありますが、『なんやかんや得したよね』と多くの人に言ってもらえるように頑張ります」と投稿していました。私は、カブアンドで得をする理由がよく分かりませんでした。そこで、仕組みと数字から考えてみました。
カブアンドの仕組み
- 電気、ガス、携帯、光回線などを、カブアンド経由の契約に切り替えます。
- 毎月の利用料金に応じて「株引換券」がもらえます。
- 株引換券を、運営会社カブ&ピースの株に引き換えます。いま募集している第4期は、11月6日から26日まで、1株8円です。12月22日には、10株を1株にまとめる株式併合があります。
- その株は上場していないので、売れません。上場の目標は最短で2027年春です。上場するかどうかも決まっていません。2027年末までに上場しなかった場合は会社が買い取る取り決めがありますが、値段は「会社が定める条件で」となっています。
つまり、ポイントの代わりに「まだ売れない株」をもらう仕組みです。
電気料金を比べると
電気で数字を確かめました。カブアンドでんきは、東京電力エリアでは CDエナジーダイレクト、それ以外のエリアでは大阪ガスが売っている電気です。カブ&ピースは、その代理をしています。
料金比較サイトの試算(2026年11月時点)では、次のとおりです。
- 東京電力の従量電灯B と比べると、ほぼ同じです。4人家族で年172,338円、東京電力より年692円安いだけです。
- いちばん安い会社と比べると、1〜2人暮らしで年2,400〜2,500円ほど、3〜4人家族で年12,000〜14,000円ほど高くなります。
株引換券の還元は、無料会員で料金の1%、月500円のプラス会員で2%、月2,500円のプレミアム会員で4%です。4人家族で比べると、次のようになります。
- 無料会員: 株で約1,700円分。いちばん安い会社との差は年14,357円。差し引き、年に約12,600円の損です。
- プラス会員: 株で約3,400円分。会費が年6,000円なので、会費だけで赤字です。
- プレミアム会員: 株で約6,900円分。会費が年30,000円なので、電気だけでは大きく赤字です。
ただ、料金はよく変わります。ある時点で比べて得をしていても、それがずっと続くわけではありません。長い目で見て得かどうかは、誰にも分かりません。
株引換券の原資は、料金への上乗せ
株引換券の原資は、どこかから湧いてくるものではありません。安い会社を選べば払わずに済んだ差額か、電力会社がカブアンドに払う取り次ぎの手数料です。その手数料も、もとは利用者が払う料金です。
本来のサービスの値段に、株の分を上乗せして売っている。カブアンドの株引換券は、そういうものです。
会社の側から見ると、こうなります。
- 利用者は、大手並みの料金を払う。
- カブ&ピースは、取り次ぎの手数料を受け取る。今年の上半期に初めて営業黒字(4億1,200万円)になったのは、この手数料です。前の期の通期は、13億5,200万円の赤字でした。
- 利用者に返すのは、現金ではなく、新しく発行した自社の未上場株です。会社から現金は出ていきません。
利用者が、安い会社を選べば受け取れたはずのお得を、カブアンドの側が取っている。法律の意味で「奪っている」わけではありません。それでも、お金の流れはそうなっています。
上場して株価が上がる根拠はあるか
株価が上がるのは、利用者、つまり株主以外の投資家が、その会社に付加価値を見て、たくさん株を買ったときです。
バブルのように、虚像で一時的に株価が上がることはあります。ライブドアは、会社の中身が変わらないのに、株式分割で売れる株が足りなくなる仕組みを使って株価を押し上げました。カブアンドも、上場直後に一時的に上がることは考えられます。ただ、それは早く売り抜けた人が得をする話です。乗り換えた利用者の多くが得をする根拠にはなりません。
問題は、本質的な価値です。
売りたい人が多すぎる
株主のほとんどは、電気代や携帯代のおまけで株を受け取った人です。投資のつもりで持っている人ではありません。上場して売れるようになれば、現金にしたい人が多いはずです。それを上回るほど外の投資家が買わなければ、株価は上がりません。
会員の名簿に、株価を支えるほどの価値があるか
「会員がいれば、ほかの商品も売りやすい」という見方があります。会員になら、一般の消費者より少ない広告費で物を売れる、ということです。
ただ、会員の価値は人数ではなく、会員との関係の強さで決まります。
- 株目当てで集まった会員は、株の魅力が薄れれば離れます。 上場すると株の値段がはっきりし、還元は「1%のポイント」と変わらなくなります。お金で集めた客は、お金で取られます。
- 会員が「カブアンドから買いたい」わけではありません。 楽天の会員が価値を持つのは、そこで日常的に買い物をして、ポイントを貯めて使う習慣があるからです。カブアンドの会員は、契約先を一度切り替えただけです。
- 別の商品を売るときも、また株をおまけに付けて売っています。 名簿があるから安く売れているのではありません。
- 同じ人は、ほかの会社のお客でもあります。 囲い込めていない名簿は、ただの連絡先の一覧に近いものです。
ただの名簿が、株価を押し上げるほどの価値になるとは考えにくいです。
会員が不安定なサービスは、運用コストが上がる
株価に連動してお客が離れたり、会員数が不安定だったりするサービスは、普通のビジネスより余計なコストがかかります。
- 抜けた分を集め続けるコスト: 会員が離れやすいと、売上を保つだけで新しい客を取り続けなければなりません。手数料の薄い取り次ぎ業で客を取る費用が重ければ、利益はほとんど残りません。
- 入れ替わりの手間のコスト: 申し込みと解約の手続き、問い合わせ窓口、株の管理。会員が入れ替わるたびに手間がかかります。
さらに、株価と会員は悪い循環に入りやすい構造です。株価が下がると会員が離れ、手数料が減って業績が下がり、株価がまた下がります。普通の会社なら、株価が下がってもお客は離れません。
上場後も板挟みがあります。おまけを株で出し続ければ、新しく株を発行するたびに、すでに株を持っている会員の1株あたりの価値が薄まります。やめれば、会員がカブアンドを選ぶ理由が無くなります。
まとめ
この会社の本当の価値は、名簿ではなく、毎月入ってくる取り次ぎの手数料です。「1人あたりの手数料 × 続けてくれる期間」でほぼ決まります。
その手数料から、会員を集め直す費用と入れ替わりの手間を引けば、残るものはさらに小さくなります。わずかな手数料が、株価を大きく押し上げるほどの価値を持つようには見えません。
カブアンドの株引換券は、「付いてくる宝くじ」と考えるのがいちばん近いと思います。当たる確率も、当たったときの額も分かりません。その宝くじの代金は、安い会社を選べば浮いた料金の差から払っています。
確実に得をしたいなら、そのとき安い会社を選び、料金が変わったらまた比べ直す。その方がずっと分かりやすいと私は考えています。
この記事の数字は、公表されている決算と、料金比較サイトの試算をもとにした私の見立てです。カブアンドの解約率や、会員を1人集めるのにかかる費用は確かめていません。携帯や光回線など、電気以外のサービスの料金も比べていません。
よくある質問
カブアンドの株引換券は、どうやってもらえますか?
電気、ガス、携帯、光回線などをカブアンド経由の契約に切り替えると、毎月の利用料金に応じてもらえます。電気の場合、無料会員で料金の1%、月500円のプラス会員で2%、月2,500円のプレミアム会員で4%分です。
カブアンドの株は、いつ売れるようになりますか?
上場すれば売れるようになります。上場の目標は最短で2027年春ですが、上場するかどうかも決まっていません。2027年末までに上場しなかった場合は会社が買い取る取り決めがありますが、値段は会社が定める条件によります。
カブアンドでんきは、ほかの電力会社より安いですか?
料金比較サイトの試算(2026年11月時点)では、東京電力の従量電灯B とほぼ同じで、安い新電力より年2,400〜14,000円ほど高くなります。料金はよく変わるので、契約の前にそのときの料金で比べてください。
上場したら、カブアンドの株価は上がりますか?
分かりません。株価が上がるには、利用者以外の投資家が価値を見て買う必要があります。株主の多くはおまけで株を受け取った人で、上場したら売りたい人が多いと考えられます。取り次ぎ業の名簿と手数料に、株価を押し上げるほどの価値があるかは、上場後も会員が残り、手数料が続くことを数字で示せるかにかかっています。
