名古屋でAIシステムの開発をしている小嶋です。チームみらいの稲原むねよし氏が10月31日に「政府予算ビュー(β版)」を公開しました。行政事業レビューの5,000超の事業と2万超の支出先、財務省の予算書、歳入と国民負担をひとつながりのデータにして、サンキー図で追えるシステムです。法人番号ごとの受注額と1者応札率、基金の残高と国庫返納まで見られて、ソースはAGPL-3.0で公開されています。これまで専門家しか追えなかったものを本当に追えるようにした、良い仕事だと思います。
そのうえで、告知の最初の一文に引っかかりました。
自分が払った税金、どこへ行っているか知っていますか?
この記事では、この問いがなぜ立たないのか、その根拠のどこまでが事実でどこからが理論か、国会ではどう議論されてきたかを、会議録で確かめながら書きます。
1. 違和感の中身:国が先に使い、国民は後から納税する
「自分が払った税金がどこへ行ったか」という問いは、「税金を集めて、それを使う」という順番を前提にしています。国庫の手順は逆です。
- 国が先に支出する。国が企業や個人に払うとき、日銀の政府預金から民間銀行の日銀当座預金に振り替わり、銀行が受け取った人の口座に預金を書き込む。民間のお金はここで生まれる
- 納税は、あとから民間のお金を消す操作。納税すると、その人の預金が減り、銀行の当座預金から政府預金に戻る。お金はここで消える
- 民間銀行が国債を買うときに使う当座預金は、もともと政府の支出か日銀の操作で供給されたもの。民間が「持っていたお金」で政府に貸しているのではない
この手順では、税は「どこかへ行く」ものではなく、「消える」ものです。使われたお金は税が入る前に出ています。だから「自分の税金の行き先」という対応関係は、そもそも存在しません。サンキー図が示しているのは「国が何にお金を出したか」であって、「あなたの税金の行き先」ではない。これが違和感の中身です。
2. どこまでが事実で、どこからが理論か
この考え方は、MMT(現代貨幣理論)の中で「スペンディング・ファースト(支出が先、徴税は後)」と呼ばれています。元をたどると、クナップの租税貨幣論(チャータリズム)とラーナーの機能的財政論です。MMTという名前が付くと論争になるので、事実と理論を分けておきます。
事実の部分(国庫と日銀の仕組み。主流派も日銀も財務省も否定しない)
- 政府の支出で民間の預金が生まれ、納税で消える
- 自国通貨建ての国債で、「お金がなくて払えない」という形の破綻は起きない
ただし、日本の制度では各支払いの前に残高は要る
- 財政法5条で、日銀が国債を直接引き受けることは禁止
- 政府預金の残高が足りないときは、国庫短期証券を民間に売るか、財政法7条の範囲で一時借入をして残高を作ってから払う
- つまり1件1件の支払いでは、税か国債で政府預金に残高を作るのが先。MMTはこれを「自分で課した制約」と言い、主流派は「歯止めとして意味がある制約」と言う。手順は両方が認めている事実で、制約を本質的と見るかどうかが理論の分かれ目
理論の部分(ここからはMMTの主張で、賛否がある)
- 「税は財源ではない」。お金の手順としてはそのとおりだが、実物(人・設備・資材)の面では、政府が使う分を民間から空けるのが税の役割で、その意味では財源
- 「財政の制約はインフレだけ」。ここが本当の論点。主流派は、金利の上昇、為替、通貨への信認、将来の増税を見込んだ民間の行動も制約だと見る
- 「日本は巨額の赤字でもインフレにならなかったからMMTの証明だ」。主流派は、デフレ・高齢化・日銀の国債買い入れという特殊な条件の結果で、証明ではないと見る
「国が先に使い、国民は後から納税する。だから自分の税金の行き先という問いは成り立たない」。ここまでは事実です。 「だから財政赤字を気にしなくていい」まで行くと理論で、賛否があります。政府予算ビューへの違和感は、理論に賛成するかどうかと関係なく、手順の事実だけで言えます。
3. 国会ではどう議論されたか
国会会議録では「MMT」は全角の「MMT」で書かれます。2019年以降で85回の会議に出てきて、一番濃いのは2019年です。
2019年4月4日 参議院決算委員会 西田昌司議員(自民)と麻生財務大臣・黒田日銀総裁
西田議員は、黒田総裁に信用創造の手順を確認させたうえで、こう言いました。
元々借金は預金を集めてそれを借金すると思っていましたが、そうじゃなくて、預金は誰かが借金することによって出てくるんだと、こういうまさに天動説から地動説なんですよ
国債を政府が発行して事業をすることによって…政府の借金は増えているけれども、民間の、国民の資産が増えるわけです
「国が先に使い、国民は後から納税する」を国会で最初に正面から言った発言です。麻生大臣はこの日、「その実験に最も適しているのは日本じゃないかという話もよくしている人がおられます」と答えています。
2019年5月15日 衆議院財務金融委員会 麻生財務大臣
50年前に住んだブラジルの年率1800%のハイパーインフレを引いて、「朝のパンの値段と夕飯のパンの値段が違う」。
2019年5月21日 衆議院財務金融委員会 黒田日銀総裁
MMTに関しましては、きちっとした理論的なモデルがはっきりしません
日銀の国債買い入れは物価の安定のためで、「MMTが述べているような財政ファイナンスではない」。
2019年6月3日 参議院決算委員会 西田議員と麻生大臣
西田「お金があるから借金ができると思っている。違うんですよ、借金するからお金が出てくるんです。これが地動説」。麻生「ニューMMTだか西田MMTだかは別にして…一つの理屈ですな」。
2019年6月10日 参議院決算委員会 安倍総理
MMT理論とアベノミクスの関係でございますが、西田委員から違いは全くないという御指摘がございましたが、そうでもなくて
自国通貨建ての政府債務がデフォルトしないのは「それはそうなんですが」と認めたうえで、債務残高がどれだけ増えても問題ないという考え方には基づいていない、と。
2023年以降(いまの議員)
大門実紀史議員(共産)が2025年6月3日の財政金融委員会で「赤字国債を日銀に引き受けさせてもっと財政支出をという主張のベースにあるのがMMT、現代貨幣理論」と批判的に取り上げ、2026年3月と4月にも続けています。小田原潔議員(自民)は2023年と2024年の財務金融委員会で「コロナの自粛期間にMMTの本を2冊熟読した」と切り出し、上田勇議員(公明)は2023年6月に「国債はもっと発行しても財政の持続可能性は大丈夫だという理論」として触れています。
つまり国会では、「支出が先で預金が生まれる」という手順そのものは日銀総裁も総理も否定しておらず、「だから債務が増えても問題ない」という結論の部分だけを政府が否定した、という構図です。2節の線引きと同じです。
いまの議員の質疑は、当社の国会議員 発言ログで日付と会議名つきで読めます。 https://xb4g.com/giin/search?q=MMT#ref=vibeblog-mmt
質問主意書と答弁書は、質問主意書アシストで4件あります。 https://kurage.exbridge.jp/kshuisho.php/search?q=MMT#ref=vibeblog-mmt
4. 政府予算ビューに当てはめると
政府予算ビューの土台にあるのは、「税収が財源で、それを事業に配る」という家計簿の財政観です。サンキー図の左端に「歳入」を置いて右へ流しているのが、その表れです。
手順の事実に合わせるなら、左端に置くべきは「政府の支出」で、税は右端に「回収と調整」として描くものになります。入口の言葉も、「自分が払った税金がどこへ」ではなく、「国は何にお金を出し、あとからどれだけ回収しているか」のほうが、このサイトの図そのままで、より正確です。
もう一つ、順番の話があります。サイトには年収と家族構成を入れると税と保険料の負担率が出る「国民負担」のビューがあります。源泉徴収と年末調整で払う行為がなく、消費税は価格に溶け、一番重い保険料は「税」と呼ばれていないので、多くの人に「自分のお金を国が使っている」という実感はそもそもありません。負担のビューは、その実感を作る機能です。だとすれば、
- あなたは今年、税と保険料で国にいくら払っているか(負担)
- 国は122兆円を何に出しているか(サンキー図)
- その使い方は成果が出ているか(評価一覧・1者応札率・基金)
の順番のほうが、届くと思います。
「税の使い道」を見せると、人は「無駄遣いをやめれば減税できる」と考えます。手順の事実に立つと、問うべきは「この支出はインフレを起こさずに実物の資源(人・設備)を動かしたか」で、無駄遣いかどうかとは別の問いになります。チームみらいがどちらの枠で作っているかで、このシステムの先が分かれます。
5. おまけ:発言ログで半角「MMT」が0件だった
この記事を書くために当社の発言ログで「MMT」を引いたら0件でした。会議録が全角「MMT」で書かれていて、半角で入れると引けなかったのが原因です。「GDP」「AI」「DX」など英字の語は全部同じ落とし穴でした。半角で入れた語を全角に直したものでも探すように直し、いまは半角「MMT」で10件、「GDP」で1,003件引けます。質問主意書アシストも同じ直しを入れました。
公開しているシステムは、こうやって使った人(この場合は自分)が引っかかったところから直っていきます。
国会の議論を追う、当社のシステム
国会議員 発言ログ(いまの衆参711人の質疑と答弁) https://xb4g.com/giin/#ref=vibeblog-mmt
国会トラッカー(テーマごとの質疑と政府答弁を2010年代からさかのぼる) https://xb4g.com/giin/tracker/#ref=vibeblog-mmt
質問主意書アシスト(1947年からの質問主意書と答弁書23,347件) https://kurage.exbridge.jp/kshuisho.php/#ref=vibeblog-mmt
よくある質問
なぜ税金と支出の対応関係がないのですか?
政府の支出によって民間の預金が生まれ、納税によってその預金が消える仕組みだからです。
MMT(現代貨幣理論)における「スペンディング・ファースト」とは何ですか?
「支出が先、徴税は後」というお金の手順を指します。政府の支出で民間の預金が生まれ、納税で消えるという考え方です。
国会ではMMTについてどのように議論されていますか?
「支出が先で預金が生まれる」という手順自体は日銀総裁も総理も否定していません。一方で、「だから債務が増えても問題ない」という結論については政府が否定しています。
